夫婦の音楽2008年04月01日

 仕事帰りに、とある街の商店街を、いつものように音楽を聴きながら、とぼとぼと歩いていた。
 すると僕の後ろから一組の老男女が、僕を追い抜いていった。

 2人は背丈が大変小さくて、ミニモニサイズの老夫婦に見えた。夫婦では無いかもしれないが、パッと見、そう見えたし、そうあってほしかった。
 婦人の方は小太りの典型的なオバチャンで、何かカートのようなものを押しながら歩いていた。
 男性は、もう既に頭が禿げ上がったオッサンで、足の具合が悪いのか杖を付きながら、婦人の肩に手をかけながら歩いていた。
 しかしながら2人の速度は、かなり速く、ひょこひょこと、どこかしら元気に颯爽と歩いていた。

 2人とも正面を真っ直ぐ向いて、時折何かそれぞれ勝手に喋るような感じで、何事か声を発しながら歩いていた。
 2人向き合って見つめ合うでも無く、お互い前を向きながら、一生懸命行進しているようであった。
 全然いちゃついている感じでも無かった。

 しかしである。
 彼らの足に目を向けると・・・。
 これが、歩調が驚くほどピッタリなのである!。
 速度も歩幅も出す足もピッタリ。
 まるで良く訓練された軍隊の行進のようにピッタリなのである。
 マナカナのユニゾン喋りにも負けず劣らずピッタリなのである。
 それぞれ正面を向いて一見勝手に歩いているように見える2人に、よもや足を合わせようという意識は全く無いだろう。
 でもピッタリなのである。
 軍隊は、散々訓練して、やっとピッタリ、でもこっちは訓練も何もせず、無意識にピッタリ、だから、こっちの方がスゴイのである。

 僕は颯爽と遠くなっていく2人の背中を眺めながら「なんて息のあった2人なのだ・・・」と感動していた。
 僕は独身で、まだ結婚した経験が無いので、実際の所は良くわからぬが、きっとこれが「夫婦」というもんなんだろうな・・・としみじみ感じた。実際は夫婦で無かったかもしれないけど、そうあってほしかった。
 2人のピッタリ息のあった歩くリズムは、2人が長年培ってきたリズム、これぞ夫婦が奏でる「音楽」なのだ。
 そんなこんなを曲を聴きながら考えているうちに、またまたなぜか泣けてきてしまった。
 今年になって、涙腺の弱まりが、加速している。
 まあ、回りに他に人がいなかったから良かったけど。